高校辞めろ
息子は通信制高校に在学している。
動画授業と年に5回のスクーリング(実技)で単位が取れる。
簡単なようで簡単ではない。
子供によるけれど、息子の場合は動画授業などの学科はちょろいものだった。
しかしスクーリングが曲者だった。
何がイヤなのかは私にも分からない。行って授業受けて帰ってくるだけじゃん?
しかもたった年に5回。
それだけがあいつに影を落とさせる曲者だった。
正直母親ながら実は息子の通信制高校の内容は知らない。全部旦那に任せていたから。
ただ、行き渋っていたのは知っていた。
バイトを探しているのだけどなかなか。
ネットの申し込みがいまいちなのか、歳で引っかかるのか分からないけど、いくつか募集申し込みしてるんだけどね。
返事が無かったりが多い。
面接は2回落ちたかな。
カフェと街ど真ん中のご飯屋さんならまぁ落とされるだろうな。息子の条件じゃ。
働いた事のない16の男子だからな。
さて、今日と明日はスクーリングだったんよ。
私は昨日さっさと寝ちゃったけど。
息子は悶々としていたみたい。
朝旦那が起きてきて、ぽつりぽつりと言うんだ。
行かなければならないのは分かっている。
お金がかかっているのも分かっている。
だけどどうしても嫌で嫌でたまらない。
でも考えれば考える程、その『嫌』は自分がただ面倒臭さがっているだけなのでは。
なら自分はなんて怠惰なのだろうと。
その繰り返し。
お父さんが『休学するか?』『辞めるか?』と言ってくれるだろうと想像も付く。
想像も付くから自分がお父さんに言って欲しいだけなんだろうかと。
お父さんも、普通の子が良かったろう?
あぁ、なんてこと。
思わせまいと思っていた事をなぁ。
全く私が中学の頃思っていた事じゃないか。
生まれ変わったらどうか私のいない家族を育んで下さいと切に願った当時の私が思い出された。
妙な所似てしまったなぁ。
旦那は『俺はそんな事、今も昔も思って生きたことがなかった。息子に、普通の子が良かったろうなんて言わせて悲しい。そんな悲しみ知らなかった。そんな悲しみを君も息子も持つの?不登校になるだけでそんな悲しすぎる痛みを子供達が持つのは悲しい。俺は言葉が出ない。今まで考えたことが無かったから。そんな自分が悲しい。言ってあげたい事も浮かばなかった俺は俺が嫌で悲しい。色々考えている子供達を想うとどうにも切ない。』と涙目になって言っていた。
もうそこで私は決まっていた。
休学とかあんの?そのスクーリングは必須なの?と聞きはしたけど聞きながらもう決まっていた。
まだ寝ていた息子を起こして話をした。
『あんた、もう学校やめろ。そしてフリーの身になってがむしゃらに働け。金稼げ。人脈も社会の成り立ちも学ぶ道を行け。悶々とするな。働いて生活費入れろ。そして給料使い切って私に怒られて、翌月倍くれ。そんな馬鹿な事をしろ。休学とか面倒なタイムリミットがあるのも頭に入れるな。働いて勉強したくなったらまた考えろ。その頃には自分で稼いでるんだから自分の自由だ。金が足りなければお願いしに来い。ただそれだけだ。
私が学歴がないと選択肢が狭まると言うのを分かったように納得してあんたは高卒を望んだけど、言葉でしか分かってないだろ?実体験しろ。
あぁ、マジで選択肢ねぇわ。そう思ってから考えろ。まず体験しろ。
あんたは私よりも聡いんだよ。勉学もむしろ好き寄りなんだ。あんたの頭なら一年と足らずになんとでもなる。だからその前に納得できるまで働け。はした金でも稼ぐ世界を知れ。
あとそれから、休学や辞めさせる道を提案して欲しくてお父さんに相談したとか卑下するな。
お父さんじゃない、私が、お前を、辞めさせる。
その後あの時辞めたからと後悔するようなことがあったら多いにお母さんに辞めさせられたから!って言って来い。しばいてやるから』
と言ったらケラケラ笑い出した。
まかせろ。通信制高校はお母さん専門外なんだ。なんも言ってあげられないんだ。
中学より先の道は知らないんだ。
でも若くして働く道は得意分野だ。
まかせろ。楽しいぞ。
小さな世界に囚われた自分が懐かしく思うから。
絶対。
何故ならあんたは私に似てるから。
まかせろ。
後悔したら私のせいだ。
それもまかせろ。
俺が…何度もそう言いたくて、ニュアンスが違うけど…3時間かかってもなかなか息子あんなに笑わなかったのに…それよりも普通の子が良かったろう?なんて言葉を引き出してしまったのに…3分で終わらせた…。
と後から駅まで送迎する車で旦那に言われた。
あいつは分かってないのに分かりすぎているからね。そう言う子は辞める?じゃなくて辞めろ。の方がいいんだよ。
そして後に誰かのせいにする奴じゃないよ。
自分の所為にする時はもういいおっさんだよ。
それでいいじゃないか。
とだけ言った。
いいんだよそれで。
貴方はそれでいいんだよ。
私と息子と娘が寄り掛かって生きていけるのは、そんな貴方だから、それでいいんだよ。
頼むから傷付かないでおくれね。
楽しくいこうよ。
私は今、楽しいんだからさ。