日記

なんとなく

#迷いと決断

<p> 塾に遊びに学校と、毎日毎日キラキラと息子は何の悩みも無く生きていた。

学力にそこそこ自信のあった息子は、自分の力を試したいと、中学受験を望んだ。

親としては期待してしまう。

私は学力が無い。

あぁ、この子は、勉強に強い子に育っているのかと。

やってみようやってみよう。

小学5年生の秋、すぐに塾に申し込んだ。

受験前は塾もハードな時間割になった。

単身赴任でいない主人の変わりにとでも言うのか、毎日の送り迎えは私が行った。

毎日4時間以上の授業。

仕事が終わると駆け足の様にスーパーを巡り、材料を買い込み、すぐ帰宅後夕飯作り。

息子は学校が終わると飲む様に急いで夕飯を食べ、すぐ向かう。

塾から帰るのは夜の11時をいつも過ぎていた。

それでも息子は楽しそう。嫌だと一言も言わなかった。

学ぶのが楽しい。知らない知識をどんどん教えてくれる。

キラキラしている息子に私は誇らしかった。

大変だったけれど、楽しかった。

あれ程緊張した受験も難なく合格だった。

その日はお祝い一色だった。

ここまではよくある家庭の風景のはずだった。

順風満帆の様なつもりだった。

入学してすぐ、中学一年の5月頃から息子の様子が変わって行った。

朝もなかなか起きず、常に影のある雰囲気。夜にはケロリとしているためなかなか気づき難い。

よくある五月病だと思った。

友達も出来た。部活も楽しい。授業も面白い。

しかし朝の体が重い。

準備する時間もどんどんかかり出していた。

今まで忙しかったから、疲れが出たのだろうか。

夜、寝る時間が遅いのでは無いだろうか。

その程度にしか考えなかった。

本人も、そうかもしれないと言っていた。

しかし、それは、世間でよく耳にする不登校の始まりだった。

滅多に泣かなくなっていた息子が、朝、制服に着替えたまま、クッションを抱きしめて、ポロポロと泣き出した。

驚いた。

行きたくない。学校、行きたくない。

なぜ行きたく無いのかは具体的には分からない。

どの不登校児を持つ親も、少しの違いはあれど、だいたい似た様な行動になる。

どうしたら、また楽しく学校に行くのだろうと。

学校に戻す事を考える。

私も例に漏れず、それどころか、折角あれほど頑張って勉強して、お金もかかって、合格した学校じゃないか。勿体ない。頑張れよ!と必死だった。

学校の先生にも相談して、別室登校もさせてみた。

何度か行くうちに、学校にまだ来ていませんと先生から電話があった。

何度も何度も繰り返し息子の携帯に電話をかけた。

やっと繋がった瞬間私は仕事中車の中で怒鳴り散らしてしまった。

何故、何故と。もはや行ける行けないで怒鳴っているよりは、先生に世話をかけてしまった、仕事の時間を割いて心配した、そんな自分の思いをぶちまけるかのように怒鳴り散らしてしまった。

息子は電話の向こうでうん、うん、と静かに呟くだけだった。

そしてその日の夜には、二つ下の妹といつもの様に元気にゲームをしていた。

でも次の日の朝、とうとう毛布にくるまって、震えながら泣く息子を見て、あぁ、もう無理だ。そう思った。

世間では、学校に行かなくても大丈夫、なんとかなる。子供を追い詰めないで。そんな声があるのは分かっている。私もそう思っていた。そんなに傷付く位なら、ゆっくり休めばいいのよ。分かっている。

おそらく、殆どの母親が分かってる。

むしろ私は、子供を産む前から分かってた。

だって私が、中学3年間引きこもりだった不登校児だったから。

髪の毛もとかさず、顔も洗わず、漫画の空想に明け暮れて、リストカットの常習者。責める人間がいなくても、学校に行けない自分は人間のクズだと自己嫌悪に落ちる。そんな事ないよと言う周りの声など響かない。死にたくても、怖くて死ねない。余計に私は根性無し。ただただ学生の身分が過ぎるのを息を殺して待っていた。

同級生が卒業証書を持って来てくれた時初めて、あぁ終わった。と肩が軽くなったのを覚えている。

だから、分かるよ。本当、不登校児の気持ちは痛い程分かるんだ。学校行かなくてもなんとかなった人間だから、分かる分かる。私はそんな子供に出会っても、味方になれる。そんな風にタカをくくっていた所があった。だけど、不登校児を持つ母親の気持ちは知らなかった。分かっていなかった。

そんな子供に出会っても。そう思った時点で、自分の子供がそうなるとはあまり考えてなかった。他人事だった。

傷だらけにした娘の腕を見る親の気持ちはどうだったろう。

ボサボサの髪で一日中家の中で、笑いもしない娘をどう思ったろう。理解の乏しかった時代、周りの人間にどんな風に親は言われていたのだろう。キラキラ輝く笑顔で、卒業証書を持って来たセーラー服姿の他所の娘さんは、どう写った?どこの高校に決まったか、お母さん同士の会話でどんな表情をしていた?この子は将来どうなってしまうのだろうと、どれ程心配した?

私は、私が不登校児だった分、人から息子はあの母親に似たのよと言われたくなくて、きっとたくさん息子が孤独になる事をしてしまっただろう。

母親としての色んな感情を出すと、不登校児としての色んな感情を孤独にさせる。

その葛藤で私も気が狂いそうだった。

迷うことは無い、子供の感情を第一に考えて。

言うは易い。我が子の事を思えば思うほど、母親としての感情が大きく膨らみ迷いは大きくなる。

昔よりもフリースクールや通信塾はあるだろう。勉強は心配ないよね。

だけど、それすら出来ないくらいもうお金と、子供は気力を失っていた。

どうしよう。つらいなぁ。もう面倒臭いから二人で死んじゃおうか?と思った事もあった。

単身赴任中の旦那には、心配を掛けたくなくて、なるべく大丈夫だからと言う連絡しかしてなかったけども、その時になってやっと私は、旦那に死にたいと呟いた。

普段から子育てを私に任せていることに罪悪感を持っていた旦那は、ただひたすら電話の向こうで泣きながらごめん、ごめんと言っていた。

その当時はひたすら息子が自分から死を選ばないようにも気を張っていた。それだけはダメだ。それだけはさせない。

私は知っている。この年頃の子供は息をする様に死を選ぼうとする事を。

しばらくそんな鬱々とした日々を過ごしていたけれど

死にたいと思うことはあった。僕はダメ人間だなぁって。でも、やりたい事がありすぎて、死ぬのは勿体無いなぁって思ったから、そこまでいかなかったよ。あと、お父さんとお母さん、泣くのは嫌だなぁ。

と息子が言い出した。

そうね、そうね。何かをしたい欲が残っていたからよかった。欲は生きる活力ね。

あんたが死んだら、泣くどころじゃ無いから。泣くだけじゃ済まないから。

気が向いた時に息子は勉強をしている。

やっぱり勉強は好きだな。問題を解くのは面白い。

そう言う。

体も動かしたい。だからロードバイク楽しいよ。

ゲームもやる人間じゃなくて、作る人間になりたいな。その為にはやっぱり最低限の学力いるよね。

そう言うけれど、学校は3年生になった今も行けていない。

何度かトライはしたけど、やっぱり震えてダメだった。

勉強も独学はなかなか難しい。毎日はやっていない。

ロードバイクも晴れた日しか乗れない。

朝も起きられない日もある。

それでも息子の表情が明るい方に変わったのは確かだった。

今かもしれない。

あれから旦那が出来る限り帰ってきてはくれるけど、今度は旦那の体が心配になっていた。

現実的に考えて、今の会社でずっと真面目に仕事をしている彼に、転職などと簡単じゃ無い。

私は思い立った様に、息子と娘に相談した。

お父さんと一緒に暮らそうか。

みんなで県外に引っ越そうか。

一瞬で子供達は喜んでくれた。

旦那はもっと喜んでくれた。

すぐ私は仕事をやめた。

同居していた両親は背中を押してくれた。

それから家族は今年の春に引っ越した。

離れてますます、私をよく育ててくれたと両親を想う。

思いながら、旦那は毎日家に灯りが点いていると、ニコニコしている。

お父さんが大好きな子供達は、楽しそうにお父さんの帰りを待つ。

この決断で良かったのだろうかと、一抹の不安はあるものの、良かったと思う方が多い。

転入した学校へも、やっぱり息子は行けてはいないけど、元気に毎日明るくいる。

とても理解のある学校で、感謝しかない。

楽しそうに新しい中学生活を送る娘を見て、よかったとホッとすると同時に、やはり楽しい中学生活を息子にも送らせてあげたかったなとも思う。

今でも不登校に関しては、日によって、まぁいいやと思える日とやっぱり登校しないかなぁと思う日が交互にくる。

まだ先は長い。ゆっくり行けばいい。でも、先が長いからこそ心配は尽きない。

迷って、決断して、また迷っての繰り返しだと身に染みている。

子供達はそれ以上にまだまだ長い道のり、どうか楽しい事の多い道のりであります様にと、切に願う。

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<p>#「迷い」と「決断」</p>

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