日記

なんとなく

随分昔のこと

徳島から4歳で高知に来て、高知市で15歳まで過ごしたんだけどさ。

15歳から17歳まで他に引っ越して、17歳から今まで隣の市に引っ越してと割と高知の中でウロウロしてたんだけど、一番記憶にある場所はやっぱり最初の15歳まで過ごした家かなぁって。

あの年代が過去に強烈に思い出として残るんだな。

そう思うと思春期って思春期だなと思った。

 

その時、祖父母の家が隣で、ベランダ越しに行き来できたんだけれども。

小さい頃は勝手に入って、ばあちゃんにアイスもらいに行ってたな。

ベランダの窓を常に鍵を開けてくれていたから、家の延長のように行き来してたな。

ベランダ側壁の上が私の部屋だって、そこからよく近かった高知市の街や通行人を見ていた。

元々その家にはベランダが無い家だったから、3階建てで、私の部屋が洗濯物を干す場所だった。

私の部屋になったので洗濯物は祖父母宅のベランダに一緒に干していた。

 

その部屋だけコンクリ打ちっぱなしで窓が大きかった。

各部屋を割り当てられた時、父に壁紙を貼ってもらい、床もフローリングマットを貼ってもらった。

四畳程の小さい空間が、私の空間だったな。

 

壁一面が窓みたいな部屋だったから好きだった。

隣の祖父母の二階建ての家の瓦屋根が見える。

その向こうは小さい頃よく遊んだ道路が見える。

城下町の並木通りはいつも同じ時間にムクドリの大群が飛んでいた。

反対側は進学塾が隣接していて、夕方になると同じくらいの年頃の子供たちの賑やかな声が聞こえていたが、塾と言う存在をよく知らなかった私はなんの施設なのだろうと思っていた。

20年後、そこの支社に自分の息子が通うとはつゆほど思わず。

よく祖父母の屋根に、米を撒いて、食べに来るスズメをぼんやり見ていた。

夏にはよさこいの音が聞こえてきた。

同級生の住む近くの神社から祭りの音も匂いもしてきたな。

 

そこで私は不登校生活を引きこもっていた。

けれども思えば思うほど、うちにうちに籠もった大人が思うような引きこもりじゃなかったな。

心の中でずっと外を見ていたんだな。

ぼんやりと、音を聞いて、想像して、通行人の姿を見て、その人の生活を考えて。

 

ムクドリはなぜあんな大群で1つの生き物のように飛び回れるのだろうかね。

スズメは一度米をあげただけで覚えるのか。

屋根上を歩く猫は、夜は何処で過ごしている?

あぁ、よさこいの音がするね。汗を流しながら楽しそうに披露しているのだろう。

私も二度ほど参加して楽しんだな。

 

お祭りの匂いがしてきた。甘辛いイカを焼く匂いだ。プープー鳴らすストローの音と、水風船バシャバシャする音もする。

 

塾から賑やかな声がするよ。バタバタとやかましいなぁ。でも五分程ですぐシンとなる。

休み時間が終わったのね。

 

大きな窓からは月がよく見えるよ。

街が明る過ぎて、星はろくに見えないけれど、冬の月だけは綺麗に見えた。

窓際にベッドを置いていたから、虫の来ない冬は、どんなに寒くても窓を開けて寝ながら見ていた。

夏はダメ。カメムシが入ってくるよ。

だけどガラス越しに明々と見えていた。

 

ある程度まどろんだ後は、漫画を読むか、漫画を描いて1日が終わった。

 

きっと、息子も、私と同じ物を見ても、私の知らない世界を心の中で広げている事だろう。

 

さて、そんな中。

ベランダに話が戻るけれど。

 

たまに様子を見に来る友人二人が実はたまらなく嫌だった。よく居留守を使った。

卒業証書を持ってきてくれた友人達だ。

嫌いではなかった。だけど嫌だった。

ほっといて欲しかったんだと思う。

 

その日も私は居留守を使った。

だけど声が聞こえる。

『いないんじゃない?』

『でもさっき窓から人影見えたよ?』

慣れたように友人は玄関のドアを開ける。

 

だから私は祖父母のベランダに逃げた。

祖父母宅に入り、ひっそりと帰るまで息を殺す。

その時、祖父母宅の窓が開いて、母が私を見つけた。たまたま休憩に帰って来たのだ。

ここに居たのねと微笑む母に、私は声を詰まらせて、ボロボロと涙が出て、嫌だ、嫌だと首を振った。

 

うん、うん、と母は微笑んだまま頷いて窓を閉めた。

 

その後は知らない。友人には帰ってもらったと思う。会った記憶が無いから。

そんな思い出があったなぁと思い出に浸ってたのだけど、母目線になって想像してしまう。

 

どれ程の想いを持っただろうね。

セーラー服姿の他所の子に、うちの子は…と説明する時、どれ程惨めだったろうな。どれ程私を可哀想だと思っただろうな。

暗く電気の付いていない祖父母宅の部屋で、必死に泣きながら身を隠す娘の姿は、さぞかし痛かっただろう。

 

まぁもう思っても仕方のない事だけれども、やるせないなぁと、たまに感情が押し寄せる。